Tag
古代ギリシャ
-
アタラクシア
古代ギリシャ語で「乱されないこと」を意味する哲学的概念。エピクロスは肉体の苦痛なき状態(アポニア)とともにアタラクシアを至高の善とした。ピュロン主義は判断停止(エポケー)によってアタラクシアに到達するとした。ともに外的条件への依存からの独立という問題意識を共有する。
-
原子論
前5世紀、レウキッポスとデモクリトスが「万物は原子と虚空からなる」と提唱したことに始まる。近代ではドルトンが化学的原子論を確立(1803年)、ボーア・ハイゼンベルクらの量子力学へと発展。物質の究極的構成要素を問う探究は、「複雑な現象を単純な構造へ還元する」という科学的思考の原型でもある。
-
テルモピュライの戦い
前480年のペルシア戦争第二次遠征において、スパルタ王レオニダス1世率いるギリシャ連合軍がテルモピュライの狭隘路でクセルクセス1世の大軍を三日間阻止した戦い。裏切りによる包囲で全滅したが、サラミス海戦勝利への時間を創出し、ギリシャ世界の抵抗の象徴となった。
-
キュニコス学派
アンティステネスが前4世紀に創始し、ディオゲネスが体現した哲学学派。「犬の哲学者」とも呼ばれ、社会的慣習・富・名声をすべて虚飾として斥け、自然に従った自足的生(アウタルキア)のみを至上の善とした。禁欲と挑発的な言動で文明社会を批判し、ストア派に決定的な影響を与えた。
-
ディオゲネス
前404〜前323年頃。シノペ生まれのキュニコス派哲学者。貨幣偽造疑惑で追放された後アテナイに移り、桶を住処として生涯を過ごした。財産・名誉・快楽を「ノミスマ(慣習的価値)」と断じて捨て去り、自然に従う自足した生こそが真の自由だと説いた。アレクサンドロス大王との問答は後世に繰り返し語られる。
-
ソクラテスの問答法
前5世紀のアテナイで、ソクラテスが実践した対話による探求法。相手の主張に矛盾を示す反問(エレンコス)を繰り返し、「自分は何も知らない」という自覚から真の思考を引き出す。プラトンの対話篇を通じて伝わり、論理的思考・批判的思考の原型として現代教育・コーチング・法廷技術に継承されている。
-
エウダイモニア
アリストテレスが『ニコマコス倫理学』で定義した人間の究極目的。単なる快楽(ヘドネー)ではなく、徳(アレテー)を発揮した活動の中にある持続的繁栄を意味する。現代の肯定心理学やウェルビーイング論の源流であり、組織論・リーダーシップ論においても再評価が進んでいる。
-
アリストテレスの四原因説
前4世紀、アリストテレスが『自然学』『形而上学』で体系化した原因論。存在と変化を質料因・形相因・動力因・目的因の四軸で説明する。中世スコラ哲学に継承されたのち、近代科学の台頭で目的因は排除されたが、組織・設計・戦略の目的論的思考として今日の実務にも生きている。
-
ギリシア彫刻
前7世紀のアルカイック期から始まり、前5〜4世紀のクラシック期に頂点を迎えたギリシア彫刻。フェイディアスやプラクシテレスが理想的人体美を石材に結晶させた。コントラポスト(重心移動)の発明など技術的革新は、ルネサンス以降の西洋美術全体に直接継承された。
-
快楽主義
快楽(ヘードネー)を善の基準とする哲学的立場。古代ギリシャのアリスティッポスが原型を示し、エピクロスが精神的快楽を核とした体系に発展させた。近代ではベンサムとミルが功利主義として再構成し、「最大多数の最大幸福」という政策原理へと接続した。
-
ペロポネソス戦争
前431〜前404年、アテナイ率いるデロス同盟とスパルタ率いるペロポネソス同盟が激突した全ギリシャ規模の覇権戦争。27年間の戦乱はアテナイの帝国を崩壊させ、ギリシャ・ポリス世界を疲弊させた。歴史家トゥキュディデスが『歴史』で詳述し、権力政治論の古典として現代に読み継がれる。
-
テセウスの船
英雄テセウスの船を保存するにあたり板を順次交換し続けると、全部品が入れ替わった時点でなお「同じ船」か——という古代ギリシャ由来の問い。同一性・本質・連続性を問うパラドックスであり、人格・組織・ブランドの同一性論争に広く応用される。
-
懐疑主義
前4世紀のピュロンを源流とし、「何も確かには知れない」という立場から断定を差し控えること(エポケー)を説く哲学的態度。デカルトの方法的懐疑を経て近代認識論を形成した。現代では科学的合理主義の基盤となる一方、虚無主義との混同も多い。
-
形而上学
アリストテレス(前384-前322)の主著の一つ。『第一哲学』と呼ばれ、後世の編集者により物理学の『後(メタ)』に置かれたことから『形而上学(Metaphysica)』の名がついた。『存在としての存在』を問い、実体(ウーシア)・四原因説(質料因・形相因・作用因・目的因)・可能態と現実態を論じた。プラトンのイデア論を批判的に継承しつつ、個物に内在する形相を重視。中世スコラ哲学から近世哲学まで2000年にわたり西洋思想の骨格を与えた。
-
政治学
アリストテレス(前384-前322)が紀元前4世紀後半に著した政治哲学書。師プラトンの理想国家論に対し、158のポリスの政体を実証的に比較分析し、現実の政治を論じた。『人間はポリス的動物である』という人間観、王政・貴族政・共和政の三類型とその堕落形、中間層を基盤とする混合政体論など、後世の政治思想の基礎概念を提供した。
-
洞窟の比喩
生まれたときから洞窟に縛られ、壁に映る影だけを見続ける囚人たち。振り返って光を見た者は、太陽(真理)の存在を知る。プラトンが『イデア論』を説明するために用いた比喩で、哲学者の使命を示す。見えているものが世界のすべてではない——経営判断における認知の限界を問う原型となる寓話。
-
エピクロス主義
エピクロス(前341-前270)がアテナイ郊外の『庭園(ケポス)』で創始した哲学学派。快楽を最高善としながら、欲望を自然で必要なものに限定し、心の平静(アタラクシア)と身体の無苦痛(アポニア)に到達することを説いた。通俗的な『快楽主義=享楽主義』の理解は誤りで、むしろ節制と静謐の哲学である。近代の功利主義にも影響を与えた。
-
ニコマコス倫理学
アリストテレス(前384-前322)が息子ニコマコスに捧げたとされる倫理学書。『最高善とは何か』を問い、それをエウダイモニア(eudaimonia, 幸福/開花繁栄)と定義した。徳倫理学の源泉であり、西洋倫理思想の礎。中世スコラ学からマッキンタイアの現代共同体主義まで、繰り返し参照される古典中の古典である。
-
分析論後書
アリストテレス(前384-前322)が論証(アポデイクシス)の構造を論じた著作。学的知識は第一原理(公理)から必然的に演繹される、という公理体系を提示した。ユークリッド幾何学の背景にある方法論で、後世の科学方法論すべての源流。演繹と帰納の峻別を通じて、『真の知』と『経験的判断』の違いを確立した。
-
国家
プラトン(前427-前347)が紀元前4世紀半ばに執筆した対話篇。『正義とは何か』を出発点に、理想国家の構造(統治者・軍人・生産者の三階級)と魂の三部分(理性・気概・欲望)を対応させ、正義を『各部分がその本分を果たすこと』と定義した。哲人王・洞窟の比喩・イデア論を内包し、西洋政治哲学の基礎文献となった。
-
ストア派
前3世紀、ゼノンがアテナイの彩色柱廊(ストア・ポイキレ)で創始した哲学学派。ローマ期にセネカ・エピクテトス・マルクス・アウレリウスを輩出した。『コントロールできるもの(意志)』と『できないもの(外界)』を峻別し、前者に集中することで不動の平静(アパテイア)に至るとした。現代のレジリエンス論・認知行動療法の源流でもある。
-
テアイテトス
プラトン(前428-前347)の後期対話篇。数学者テアイテトスと対話する形式で『知識(エピステーメー)とは何か』を問う。『感覚である』『正しい思わくである』『根拠のある正しい思わくである』という三定義を順に検討し、いずれも退ける。結論は出ないが、認識論の問いの深さを示した古典。情報と知の違いを考える原点。
-
徳倫理学
アリストテレス(前384-前322)が『ニコマコス倫理学』で体系化した倫理思想。『何をすべきか』より『どう生きるべきか』を問い、徳とは生まれつきではなく習慣によって形成される人格的卓越性であるとした。現代の『規則倫理』『功利主義』と並ぶ三大倫理学の一つで、習慣・実践・共同体を重視する立場は近年再評価されている。