哲学 2026.04.14

テアイテトス

プラトンが『知識とは何か』を正面から問うた対話篇。認識論の原点に位置する古典。

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概要

『テアイテトス』(Theaetetus)は、プラトン(前 428-前 347)の後期対話篇。ソクラテスと若い数学者 テアイテトス、幾何学者 テオドロスの三者が「知識とは何か」を問う。

西洋哲学史上、認識論の原点に位置づけられる対話篇で、現代に至るまで議論され続ける古典である。

三つの知識定義と反駁

ソクラテスはテアイテトスに「知識とは何か」と問う。テアイテトスは順に三つの答えを出す:

1. 知識は感覚である

「見える通り、感じる通りのものが知識だ」とテアイテトスは答える。これは プロタゴラスの「人間は万物の尺度」説と重なる。

しかしソクラテスは問う——風邪をひいた人と健康な人では同じ風でも感じ方が違う。両方が正しいなら、客観的知識は不可能ではないか?

2. 知識は正しい思わくである

「当たっている判断が知識だ」という第二案。しかしソクラテスは 法廷の例を出す——弁論家の説得で陪審員が正しい判決を下しても、それは知識ではなく 説得による思わくに過ぎない。

3. 知識は根拠(ロゴス)のある正しい思わくである

「根拠づけられた正しい判断が知識だ」という第三案。現代哲学でいう JTB 説(Justified True Belief)の原型である。

しかしソクラテスは「根拠づけ」自体を何と定義するかで行き詰まり、対話は アポリア(行き詰まり)で終わる。

結論なき対話の意味

『テアイテトス』に明確な結論はない。しかしプラトンの狙いは 「知識とは何かを考え抜くことの困難さ」を示すことにあった。安易な答えを拒否する知的誠実こそが、哲学の始まりである。

現代哲学への影響

  • JTB 説 — 20 世紀哲学の知識論の基本定義として機能した
  • ゲティア問題(1963)— JTB 説を覆す反例が提示され、知識論は再び激動した
  • 認識論的外在主義・内在主義の論争も、『テアイテトス』の問いの現代的展開

現代への示唆

『テアイテトス』は、情報時代の経営者にこそ刺さる古典である。

1. 情報と知識の違い

データ、情報、ナレッジ——これらは同じではない。感覚的情報、正しいだけの判断、根拠ある判断の三層が、プラトンの問いと重なる。ビッグデータ時代こそ「情報を知識に変える」思考が問われる。

2. 根拠の質

経営判断の質は 根拠の質に依存する。勘(感覚)、経験則(思わく)、体系的分析(根拠ある思わく)——どの層で判断しているかを自覚することが、ミスを減らす。

3. アポリアを恐れない

ソクラテスが示したのは、問いを閉じずに保持する知的忍耐である。即答を求められる経営者こそ、「答えが出ない問いを抱え続ける」姿勢が長期判断の質を高める。

関連する概念

プラトン / 認識論 / ソクラテス / プロタゴラス / JTB 説 / ゲティア問題

参考

  • 原典: プラトン『テアイテトス』(田中美知太郎 訳、岩波文庫、2014)
  • 研究: 納富信留『プラトンとの哲学——対話篇をよむ』岩波新書、2015

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