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概要
『三国志演義』(三国志通俗演義)は、元末明初の文人羅貫中(生没年未詳)に帰される歴史小説である。現存する最古の刊本は一五二二年の「嘉靖本」。清代に毛宗崗父子が大幅に手を入れた「毛宗崗本」が最も普及している。
正史『三国志』(陳寿著、三世紀)を基盤に、宋元の講談・元雑劇の伝承を取り込み、「七分の事実、三分の虚構」と評される歴史演義(歴史小説)の代表作である。
あらすじ
後漢末、宦官政治と外戚の専横により漢王朝は衰亡に向かう。一八四年、黄巾の乱が勃発。劉備・関羽・張飛は桃園で義兄弟の契りを結び、漢室再興を誓う。
曹操は中原を制圧し、孫権は江南に基盤を築き、劉備は荊州・蜀で勢力を蓄える。二〇八年、赤壁の戦いで孫劉連合軍が曹操の大軍を打ち破り、天下三分の形勢が定まる。
劉備は諸葛亮(孔明)を三顧の礼で迎え、蜀漢を建国する。諸葛亮は「天下三分の計」を策し、曹魏を北伐する。五丈原で諸葛亮は病没し、蜀漢は次第に衰える。
やがて魏の司馬氏が政権を握り、晋を建国。二六三年に蜀、二八〇年に呉を滅ぼして天下を統一する。「天下大勢、分久必合、合久必分」という格言がすべてを要約する。
意義
『三国志演義』は、歴史書と物語、政治と戦略、個人と運命を結ぶ巨大な物語装置である。劉備の仁徳、関羽の義理、諸葛亮の智謀、曹操の奸雄、張飛の豪勇といったキャラクター類型は、東アジアの集合的記憶に深く刻まれた。
軍略(空城計、苦肉計、連環の計)、人事(三顧の礼、水魚の交わり)、君臣関係、宮廷政治の全領野が凝縮され、ビジネス戦略書としての読解が繰り返し試みられてきた。
現代への示唆
三顧の礼と人材獲得の本質
劉備が諸葛亮を三度訪ねた逸話は、真の人材獲得には形式を超えた敬意が必要であることを示す。報酬条件だけでは動かない人物を獲るには、何を捨ててでも来てほしいという意志の表明が要る。
同盟の設計と裏切りへの備え
赤壁の勝利は孫劉同盟の産物だったが、関羽の死をきっかけに同盟は崩れた。同盟関係は永続せず、必ず利害の転換点を迎える。提携戦略には、当初から離別のシナリオを組み込む視点が要る。
天下大勢、分久必合、合久必分
合併と分裂、成長と分割は循環する。業界構造も、統合の極に達すれば分散に向かい、分散の極では再統合が進む。自社の現在地点が循環のどこにあるかを見極める視座が、長期戦略を規定する。
関連する概念
- 諸葛亮
- 劉備・関羽・張飛
- 曹操
- 赤壁の戦い
- 天下三分の計
参考
- 原典: 羅貫中『三国志演義』井波律子訳、講談社学術文庫
- 研究: 井波律子『三国志演義』岩波新書