哲学 2026.04.14

定言命法

カントが提示した、結果によらず『それ自体として正しい』命令の形式。義務論倫理の中核概念。

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概要

定言命法(kategorischer Imperativ)は、ドイツの哲学者 イマヌエル・カント(1724-1804)が提示した、道徳法則の形式。『道徳形而上学の基礎づけ』(1785)および『実践理性批判』(1788)で展開された、義務論倫理学の中核概念である。

「もし X したいなら Y せよ」という条件付き命令(仮言命法)とは異なり、無条件に「Y せよ」と命じるのが定言命法である。

二種類の命法

種類形式
仮言命法〜したいなら〜せよ健康でいたいなら運動せよ
定言命法〜せよ嘘をつくな(無条件で)

仮言命法は欲求や目的に従属する。定言命法は理性そのものが命じる無条件の原則である。

第一形式——普遍化可能性

カントは定言命法を複数の言い換えで示した。最有名なのが第一形式:

「汝の意志の格率(準則)が、同時に普遍的立法の原理として妥当しうるように行為せよ」

噛み砕くと:

「自分の行動ルールが、全人類が採用しても問題ない規則になるか確かめよ」

嘘をつくべきか を考える:

  • 「困った時は嘘をついてよい」という格率を普遍化したら?
  • 全員が嘘をつくなら、「約束」「契約」「信頼」が成立しなくなる
  • ゆえに嘘は道徳的に不可

これが定言命法の検証プロセスである。

第二形式——目的としての人間

カントはもう一つの言い換えも提示する:

「汝自身の人格および他者の人格における人間性を、決して単なる手段としてのみ扱わず、常に同時に目的として扱え」

人間を利用することは避けられないが、同時に目的(尊重すべき存在)として扱うことを忘れてはならない、という原則。

功利主義との対比

立場善悪の判定基準
功利主義(ミル)結果が最大幸福をもたらすか
義務論(カント)行為が定言命法に適うか

たとえば「1 人を殺して 5 人を救う」問題で、功利主義は殺人を容認しうるが、義務論では不可である(人を単なる手段にしている)。

現代への示唆

定言命法は、経営倫理の思考ツールとして極めて実用的である。

1. 普遍化可能性テスト

経営判断に迷ったとき、自問する:

「自社の全員が同じ判断をしたら、業界・社会はどうなるか?」

下請けへの支払い遅延、競合への妨害、従業員の過重労働——「全員がやっても成立する行動か」を問えば、短期的利益の誘惑に流されにくい。

2. 顧客・従業員を目的として扱う

「人材」「消費者」という言葉は、人間を手段扱いしがちだ。定言命法の第二形式は、単なる利用対象ではなく目的として扱えと命じる。ESG・ステークホルダー資本主義の哲学的基礎はここにある。

3. ブランドと信頼の哲学的根拠

「嘘をつく」が普遍化できないのは、信頼という社会的基盤を破壊するからだ。ブランドとは、無数の取引における「嘘をつかない」という累積である。カント倫理は、信頼の構造論として読める。

関連する概念

カント / 義務論 / 『実践理性批判』 / 仮言命法 / [功利主義]( / articles / utilitarianism) / 自律

参考

  • 原典: カント『道徳形而上学の基礎づけ』(中山元 訳、光文社古典新訳文庫、2012)
  • 原典: カント『実践理性批判』(坂部恵ほか 訳、岩波書店、2000)
  • 研究: 石川文康『カント入門』ちくま新書、1995

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