文学 2026.04.15

ユリシーズ(ジョイス)

ジェイムズ・ジョイスが一九二二年に発表した長編。ダブリンの一九〇四年六月十六日一日を描くモダニズムの金字塔。

Contents

概要

『ユリシーズ』(Ulysses)は、ジェイムズ・ジョイス(一八八二-一九四一)が一九一四年から一九二一年にかけて執筆し、一九二二年にパリで刊行した長編小説である。英米では長く猥褻の疑いで発禁となり、一九三三年の米連邦裁判所判決でようやく出版が許された。

作中の一日、一九〇四年六月十六日はジョイスが未来の妻ノーラと初めて歩いた日で、現在もダブリンでは「ブルームズデイ」として祝われる。

あらすじ

六月十六日朝八時、ダブリン湾を望む塔で青年スティーヴン・ディーダラスが目覚める。数時間後、ユダヤ系アイルランド人のブルームが自宅の台所で妻モリーのために朝食を支度する。彼は愛する女が今日、別の男と逢う約束があることを知っている。

一日のあいだ、ブルームは町を歩き回る。葬儀に出席し、新聞社を訪れ、昼食をとり、図書館でシェイクスピア論を立ち聞きし、売春街へ迷い込み、そこでスティーヴンと出会う。二人は父と子のような関係を結ぶ。

深夜、モリーがベッドで長い独白を繰り広げる。句読点のほぼない四十数ページの独白の最後、彼女は夫との出会いを思い出し、「Yes I said yes I will Yes.」と肯定の言葉を繰り返して眠りに落ちる。

意義

ジョイスは十八のエピソードを、それぞれ異なる文体・手法・象徴体系で書いた。新聞記事、戯曲、カテキズム、質問応答、意識の流れ。「一つの作品を書くのに必要な技法のすべて」を一冊に詰め込んだ実験である。

『オデュッセイア』の構造を下敷きに、十年間の放浪を一日のダブリンに縮約する発想は、叙事詩の神話を近代都市の散文に翻訳した革命だった。

現代への示唆

日常の密度の発見

ブルームの一日は、ほぼ何も起きない。しかし、そこに二十四時間分の意識と歴史と性と死が詰まる。組織の「何も起きない一日」にも、観察する眼があれば膨大な情報が眠る。

文体の複数性という戦略

十八章を十八の文体で書く発想は、単一の声ではなく多様な言語で世界を描く試みである。経営コミュニケーションにおいても、相手と場面に応じて言語を変える柔軟性が、画一的メッセージを超える効果を生む。

小さな出会いの結節点

ブルームとスティーヴンは偶然出会い、深夜に短い時間を共にする。大きな変化は起きないが、二人の生涯で最も重要な夜になる。組織の中の偶発的な出会いが生み出す触媒作用は、計画では生まれない価値である。

関連する概念

  • レオポルド・ブルーム
  • スティーヴン・ディーダラス
  • 意識の流れ
  • ブルームズデイ
  • 『オデュッセイア』

参考

  • 原典: ジョイス『ユリシーズ』丸谷才一ほか訳、集英社
  • 研究: 柳瀬尚紀『ジェイムズ・ジョイス伝』新潮選書

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