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概要
『統治二論』(Two Treatises of Government、1689)は、イギリスの哲学者 ジョン・ロック(John Locke、1632-1704)の政治哲学上の主著。名誉革命(1688)の直後に匿名で刊行され、革命の思想的正当化を与えた。
- 第一論: ロバート・フィルマーの王権神授説(Patriarcha)を徹底批判
- 第二論: 自然状態・所有権・社会契約・抵抗権を体系的に展開
現代の自由民主主義・立憲主義の理論的基礎を提供した書である。
自然状態と自然権
ロックはホッブズと同じく 自然状態から出発するが、描き方が違う。ロックの自然状態は「闘争」ではなく、自然法(理性)が支配する相対的に平和な状態である。
そこで各人は 譲渡不可能な自然権を持つ:
生命(life)・自由(liberty)・財産(estate)
この三つはアメリカ独立宣言の「生命・自由・幸福追求」の原型である。
所有権の労働理論
ロックの最大の革新は 所有権の根拠を提示したことだ:
自分の身体は自分のものである。身体の労働を混ぜ合わせたものは、自分のものとなる
土地も、耕して労働を加えた者のものになる——これが 労働価値説の原型であり、後のアダム・スミス、マルクスへとつながる。
社会契約と信託政府
各人は自然権を守るため、合意により社会を作り、政府に権力を信託する。重要な点:
- 権力の源泉は 人民にある
- 政府は 信託にすぎず、契約の当事者ではない
- 信託を裏切る政府は解任できる
抵抗権
ロックの革新性の核は 抵抗権である。政府が恣意的権力を振るい、人民の自然権を侵害するとき、人民は政府を倒す権利を持つ。これは名誉革命の正当化であり、後のアメリカ独立革命・フランス革命の思想的根拠となった。
立法権の優越
ロックは 立法権・執行権・連合権を区別し、立法権を最高とした(後のモンテスキューの三権分立への布石)。法を作る権力が一人の手にあれば専制になる——議会制民主主義の原理がここに萌芽している。
現代への示唆
『統治二論』は、ガバナンスと正当性の源泉を論じた古典として、経営論に深く響く。
1. 権力の信託性
政府が人民の信託にすぎないように、経営陣は株主・従業員・社会からの信託を受けた存在にすぎない。CEO は所有者ではなく受託者である——この認識はコーポレートガバナンスの根幹であり、創業者の暴走を抑える倫理的ブレーキとなる。
2. 労働と所有の関係
「自分の労働を混ぜたものは自分のもの」——この直観は、従業員エンゲージメントの源泉である。自らの労働が成果に結実し、それが認知されるとき、人は組織に深く関与する。成果の所有感をどう設計するかは、報酬制度の核心である。
3. 抵抗権としての離職・内部告発
信託を裏切る政府は倒される。信託を裏切る経営は、優秀な人材の離職と内部告発という形で「抵抗」される。これは組織内民主主義の現代的表現であり、強権的ガバナンスが機能しない時代の構造的制約である。
関連する概念
ロック / 自然権 / [社会契約論]( / articles / social-contract) / 抵抗権 / 自由主義 / ホッブズ
参考
- 原典: ロック『完訳 統治二論』(加藤節 訳、岩波文庫、2010)
- 研究: 加藤節『ジョン・ロック——神と人間との間』岩波新書、2018