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概要
スンナ派(スンニ派、Sunni、アラビア語 أهل السنة 「スンナ(預言者の慣行)に従う者たち」)は、イスラム教の最大宗派。世界のムスリム約 18 億人のうち、約 85%がスンナ派である。
主要分布:中東全般(サウジアラビア、エジプト、トルコ)、北アフリカ、東南アジア(インドネシア、マレーシア)、南アジア(パキスタン、バングラデシュ)など。
シーア派との分岐
スンナ派の成立は、ムハンマド死後(632 年)の後継者問題に遡る:
争点
ムハンマドには男子の後継者がいなかったため、共同体(ウンマ)の指導者(カリフ)を誰が継ぐかが問題となった。
- スンナ派 — 共同体の合意(イジュマー)で選ぶべき。実際、アブー・バクル、ウマル、ウスマーン、アリーの4 代の正統カリフが選出された
- シーア派 — ムハンマドの血縁(いとこで娘婿のアリー)が後継者であるべき
この対立が 656 年以降の内戦(特に カルバラーの悲劇、680 年、アリーの息子フサインの殺害)を経て、恒久的な分派となった。
スンナ派の法学派(マズハブ)
スンナ派は内部に 4 つの主要法学派を持ち、それぞれが正統として共存する(シーア派と異なる柔軟性):
- ハナフィー派 — 中央アジア、トルコ、南アジアで優勢
- マーリキー派 — 北アフリカ、西アフリカ
- シャーフィイー派 — エジプト、東南アジア
- ハンバリー派 — サウジアラビア(厳格)
これら 4 派は互いを正統と認め合う。「多様性の中の統一」はスンナ派の特徴である。
法源の階層
- クルアーン — 神の啓示、絶対的権威
- スンナ(ムハンマドの慣行)— ハディースに記録される
- イジュマー(共同体の合意)
- キヤース(類推)
スンナ派の組織特徴
- カリフ制の伝統(1924 年にオスマン帝国が廃止するまで継続)
- ウラマー(宗教学者)を中心とする分権的権威
- モスクの独立性
- 現代では 国家とのゆるやかな結合(政教分離 vs 一体の程度が国により異なる)
現代の主要潮流
- サラフィー主義 — 初期イスラムへの回帰を説く原点回帰運動
- ワッハーブ派(サウジアラビアの国家イデオロギー) — 18 世紀アラビアの厳格改革運動
- ムスリム同胞団 — 20 世紀エジプト発祥、政治的イスラム
- スーフィー — 神秘主義。スンナ派内の重要な潮流
現代への示唆
スンナ派の分権的権威構造と多様性の包摂は、組織論的に興味深い:
- 単一絶対権威の不在 — カリフ制廃止後も存続している柔軟性
- 複数法学派の共存 — 合理的に異なる判断を並列して認める
- 地域差の容認 — グローバルな統一性と地域固有性の両立
- イジュマー(合意)の重視 — トップダウンではなく、学者共同体の総意で方向を決める
シーア派の階層的・中央集権的モデルと対照的に、スンナ派はフラット・ネットワーク型に近い。「多元的正統性の組織運営」のモデルとして学ぶべき点が多い。
関連する概念
[シーア派]( / articles / shia) / カリフ / ウラマー / サラフィー主義 / ムスリム同胞団
参考
- 原典: 『サヒーフ・アル=ブハーリー』『サヒーフ・ムスリム』(二大ハディース集)
- 研究: 小杉泰『現代イスラーム世界論』名古屋大学出版会、2006