哲学 2026.04.17

ネオプラグマティズム

20世紀後半に古典的プラグマティズムを刷新した哲学潮流。真理の対応説を退け、知識と言語を社会的実践として捉え直す。

Contents

概要

ネオプラグマティズム(Neopragmatism)は、1970年代末から80年代にかけてアメリカを中心に台頭した哲学潮流である。19世紀末から20世紀初頭にチャールズ・サンダース・パース、ウィリアム・ジェイムズ、ジョン・デューイが形成した古典的プラグマティズムを、分析哲学・大陸哲学・言語哲学の成果を取り込んで再構築した。

旗手はリチャード・ローティ(1931–2007)。その主著『哲学と自然の鏡』(1979)は、哲学が長らく前提してきた「心は世界を映す鏡である」という表象主義の図式を解体した。以後、ヒラリー・パトナム、ロバート・ブランダム、コーネル・ウェストらが各方向に展開し、単一の学派ではなく複数の研究プログラムを持つ緩やかな運動体として機能している。

古典的プラグマティズムとの連続と断絶

古典的プラグマティズムの核心命題は「観念の意味はその実践的帰結にある」(パース)、「真理とは有用性によって検証されるもの」(ジェイムズ)、「知識は問題解決の道具である」(デューイ)であった。

ネオプラグマティズムはこの反基礎主義の姿勢を継承しつつ、20世紀後半の言語論的転回を吸収する。ローティはウィトゲンシュタイン後期哲学・クワイン・セラーズの知見を重ね合わせ、「所与の神話」——経験や感覚与件が知識の絶対的基盤となりうるという想定——を退けた。

古典派との主な断絶点は二つある。一つは真理論の扱いで、ローティは「真理」を説明すべき固有の概念と見ることをやめ、称賛的用語(「正当化された主張」の別名)にすぎないと論じた。二つ目は形而上学への態度で、デューイは形而上学を改良の余地あるものと見たが、ローティはその語彙ごと棄却する立場を取った。

主要論者と分岐

ローティの反表象主義と「会話としての哲学」

ローティは、哲学の役割を「真理の礎を見出すこと」から「会話を継続させること」へと再定義した。『偶然性・アイロニー・連帯』(1989)では、社会的連帯の基盤を理性的必然性ではなく「他者の苦痛への感受性」という偶然的共感に求め、リベラル・アイロニストという人間像を提示した。

「私たちが知識と呼ぶものは、正当化に対する社会的権利である。」 (ローティ『哲学と自然の鏡』序文より)

ブランダムの推論主義的意味論

ロバート・ブランダムは『明示化すること』(1994)で、言語の意味を社会的推論実践——主張する・反論する・根拠を求めるというゲーム——から導き出す規範的プラグマティズムを展開した。言語の意味は対象との因果的対応ではなく、発話者が互いに負う推論上の責務と権利において成立するとした。

パトナムの「内在的実在論」

ヒラリー・パトナムは独自の「内在的実在論」を経由しつつネオプラグマティストの論争に加わった。後期パトナムはローティの反実在論的傾向を批判しながらも、絶対的な神の目点(God’s-eye view)からの真理論を退ける点では一致した。

コーネル・ウェストの予言的プラグマティズム

コーネル・ウェストは『アメリカン・エヴァジョン・オブ・フィロソフィー』(1989)でデューイの伝統を黒人解放神学・ポスト構造主義と接合し、「予言的プラグマティズム」として社会変革の哲学へと展開した。プラグマティズムの政治的含意を急進化した立場である。

現代への示唆

1. 「正解」より「機能する枠組み」を問う

ネオプラグマティズムは、議論の照準を「客観的真理の発見」から「この文脈でこの目的に最も機能する記述はどれか」に移す。経営上の意思決定においても、正当性の根拠を普遍的原則に求めるより、現時点での問題解決に向けた枠組みの有効性を問う発想は実践的価値を持つ。

2. 知識の社会性と組織学習

知識は個人の頭の中にある表象ではなく、共同体の実践の中で維持・更新されるものだとする立場は、組織的知識創造論(野中郁次郎のSECIモデルなど)と通底する。「正しい答えを持つ個人」よりも「問いを継続できる集団」を育てることが組織設計の要点となる。

3. 言語ゲームの刷新がイノベーションの源泉

ブランダムが強調する通り、語彙(ボキャブラリー)の変換は思考の変換に等しい。既存の「常識」を定義している語彙そのものを問い直すことが、市場の再定義や新規事業の起点になりうる。

関連する概念

[プラグマティズム]( / articles / pragmatism) / [言語ゲーム]( / articles / language-games) / [反基礎主義]( / articles / anti-foundationalism) / [ウィリアム・ジェイムズ]( / articles / william-james) / [ジョン・デューイ]( / articles / john-dewey) / クワイン / セラーズ / デリダ(大陸哲学との接点)

参考

  • ローティ, R.『哲学と自然の鏡』(野家啓一 監訳、産業図書、1993)
  • ローティ, R.『偶然性・アイロニー・連帯』(齋藤純一ほか訳、岩波書店、2000)
  • ブランダム, R. Making It Explicit, Harvard University Press, 1994
  • パトナム, H.『実在論と理性』(野本和幸ほか訳、法政大学出版局、1992)
  • 伊藤邦武『プラグマティズム入門』筑摩書房(ちくま新書)、2016

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