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概要
『レ・ミゼラブル』(Les Misérables)は、ヴィクトル・ユゴー(一八〇二-一八八五)がベルギー・ガーンジー島での亡命生活中の一八六二年に刊行した五部構成の大長編小説である。
タイトルは「みじめな人々」を意味し、刑余者、娼婦、孤児、失業者、革命家といった十九世紀社会の周縁に置かれた人々を、歴史の中心に据えた点に画期性がある。
あらすじ
一片のパンを盗んで十九年間徒刑場にあったジャン・ヴァルジャンは、出所後に行く先がない。ミリエル司教の家に泊まり、銀器を盗んで逃げるが、憲兵に捕らえられる。司教は「銀器は差し上げたものだ」と証言し、銀の燭台までも与えて彼を赦す。
衝撃を受けたヴァルジャンは名を変え、工場主・市長として生まれ変わり、不幸な女工ファンティーヌの遺児コゼットを引き取って育てる。
宿敵ジャヴェール警視は、彼の過去を追い続ける。コゼットは青年革命家マリユスと恋に落ち、一八三二年六月のパリ蜂起でバリケードに参加する。ヴァルジャンは下水道を通ってマリユスを救出し、捕らえたジャヴェールを逃がす。法の化身だったジャヴェールは、自らの秩序観の崩壊に耐えられず自殺する。最終場面、コゼットとマリユスに看取られてヴァルジャンは死ぬ。
意義
本作は、社会制度の不正が個人の生涯を蝕む現実を、膨大な細部とともに描いた社会小説の金字塔である。刑罰制度、都市下水、修道院、スラム、戦場、革命のすべてが、物語に組み込まれる。
慈悲と赦しが人間を根本的に変えうるという主題は、司教の一夜の赦しが全小説の発条となる構造に集約される。宗教的・倫理的再生の物語としても、革命文学としても読まれてきた。
現代への示唆
赦しが人を根本から変える
司教の赦しが、犯罪者から市長へのヴァルジャンの転身を起こした。失敗した社員や取引先への処し方は、制裁か再生のどちらかだけではない。深い赦しこそが、予想を超える変容を引き起こす資本となりうる。
制度の執行者にも内面がある
ジャヴェール警視は、法こそが秩序であると信じて追跡を続けた。その信念が揺らぐとき、彼は自死を選ぶ。機械的な規則執行者として部下を育ててしまうと、例外事例に直面した際に組織が脆くなる。
周縁の声を中心に置く
ユゴーは娼婦や浮浪児を主人公の周りに配置した。自社の事業に周縁化されている声をどう取り込むかは、ESG時代の経営課題そのものである。周縁を見れば、中央の偽善も見える。
関連する概念
- ジャン・ヴァルジャン
- ミリエル司教
- ジャヴェール
- 一八三二年六月蜂起
- 社会小説
参考
- 原典: ユゴー『レ・ミゼラブル』豊島与志雄訳、岩波文庫
- 研究: 稲垣直樹『ヴィクトル・ユゴー』白水社