科学 2026.04.17

核分裂と核融合

原子核の分裂または結合によって莫大なエネルギーを放出する核反応。20世紀の科学・軍事・エネルギー政策を根底から変えた。

Contents

概要

核分裂(nuclear fission)と核融合(nuclear fusion)は、原子核の変換を通じて膨大なエネルギーを取り出す二種類の核反応である。いずれもアインシュタインの質量エネルギー等価式 E = mc² が示す通り、わずかな質量の損失が莫大なエネルギーに転換される。

核分裂は1938年、オットー・ハーンとフリッツ・シュトラスマンがウラン235の中性子照射によって核分裂を発見し、リーゼ・マイトナーが理論的に解釈したことで確立された。核融合の機構は1930年代にハンス・ベーテが太陽内部の反応として理論化した。

二つの反応は対称的だ。核分裂は重元素が割れる反応であり、核融合は軽元素が合わさる反応である。どちらも核力——電磁気力より強大な短距離力——の解放によってエネルギーが生まれる。

核分裂のメカニズム

ウラン235やプルトニウム239などの重い原子核に中性子を一個衝突させると、核が不安定になり二つの原子核に分裂する。この際、複数の中性子(平均2〜3個)が放出される。

この放出された中性子が次の核分裂を引き起こす——これが連鎖反応(chain reaction)である。一定量の核燃料(臨界質量)を超えると反応は自己持続し、制御なしでは爆発的に増大する。1945年の広島・長崎への原爆投下はこの連鎖反応の軍事応用であった。

原子力発電所では制御棒によって中性子の数を調整し、反応速度を人工的に抑制する。発生した熱で蒸気を生み、タービンを回す——本質的には「核の火で湯を沸かす」装置である。

核分裂の課題は使用済み燃料の処理にある。ウラン分裂後に生成される放射性廃棄物の中には、数万年にわたって放射線を出し続けるものが含まれる。

核融合のメカニズム

核融合は水素の同位体——重水素(デューテリウム)と三重水素(トリチウム)——を極めて高温・高圧の状態に置き、原子核同士を融合させる反応である。太陽中心部では約1500万度、地球上の実験装置では1億度以上の温度が必要とされる。

融合によって生成されるヘリウム核の質量は、反応前の核の合計質量より約0.7%小さい。この質量差がエネルギーとして放出される。同量の燃料から得られるエネルギーは核分裂の3〜4倍に達し、かつ二酸化炭素を排出しない。

実用化の壁は「プラズマの閉じ込め」にある。1億度を超えるプラズマは通常の容器には触れられないため、強力な磁場で包む必要がある。トカマク型装置(フランスのITERプロジェクト等)やレーザー慣性閉じ込め方式がその手法として研究されている。

2022年12月、米国国立点火施設(NIF)が核融合反応で投入エネルギーを上回る出力(点火:ignition)を初めて達成した。商業炉の実現には工学的課題が残るが、概念実証は完了した段階にある。

比較

項目核分裂核融合
燃料ウラン、プルトニウム重水素、トリチウム
反応温度常温(臨界質量で起動)1億度以上
廃棄物長寿命放射性廃棄物あり半減期の短い廃棄物のみ
実用化済み(発電・兵器)研究段階(2020年代に点火達成)
メルトダウンリスクあり構造上ゼロ

現代への示唆

1. 技術の成熟度と意思決定

核分裂は「使える技術だが課題が残る」、核融合は「理想だが未成熟」という状況に長くあった。この構図はあらゆる技術選択に共通する。完璧な解決策を待ち続けるか、不完全な現行技術で動くかの判断は、経営においても核エネルギー政策においても同型の問題である。

2. スケールと制御のトレードオフ

核反応が示すのは、巨大なエネルギーを解放するほど制御コストも跳ね上がるという法則である。組織規模の拡大、システムの複雑化、市場への急速な参入——スケールアップは常に新たな制御機構の設計を要求する。

3. 廃棄物問題は後払いコスト

原子力の社会的受容を最も阻んでいるのは廃棄物の最終処分問題である。利益を先取りし、コストを世代間で先送りする構造は、年金・財政赤字・技術的負債と同じパターンを持つ。

関連する概念

相対性理論 / 量子力学 / 熱力学 / マンハッタン計画 / エネルギー安全保障 / 気候変動と脱炭素 / ITER / リスクと技術受容

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