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概要
アール・デコ(Art Deco)は、1920年代から30年代にかけて世界を席捲した装飾芸術・建築様式である。名称は1925年パリ現代装飾美術・産業美術国際博覧会(Exposition Internationale des Arts Décoratifs et Industriels Modernes)の略称から後に定着した。
アール・ヌーヴォーの有機的曲線を退け、機械時代の洗練を直線・対称・幾何学で表現した。
様式・技法
視覚要素は以下に集約される。
直線と対称、放射状・ジグザグ模様、太陽光線・シェブロン(V字)・ステップ(階段)パターン、流線形(ストリームライン)——これらが建築、家具、装飾、グラフィック、ジュエリーに一貫して現れる。
素材は豪華だった。マホガニー、象牙、漆、ラピスラズリ、クローム、ニッケル、真鍮、ガラスのイスラエル・ハネラ(ルネ・ラリック)——高級素材と機械的モチーフの結合が特徴的である。
代表的作品群——ニューヨーククライスラー・ビル(1930、ヴァン・アレン)、エンパイア・ステート・ビル(1931)、マイアミのアール・デコ地区、ロンドン地下鉄駅舎(ホールデン)、豪華客船ノルマンディー号の内装、タマラ・ド・レンピッカの絵画、カルティエのジュエリー、ラリックのガラス工芸。
背景・意義
時代背景には第一次大戦後の復興、電化・自動車・飛行機の普及、マスメディアとハリウッド映画の勃興がある。アール・デコはモダン・ライフの視覚的約束として機能した。
アール・ヌーヴォーが手工芸を守ろうとしたのに対し、アール・デコは機械生産との和解を図った。豪華さを保ちつつ、生産可能な様式として設計された点が画期である。
1930年代の世界恐慌と第二次大戦で流行は終焉するが、1960年代以降にアメリカのレトロ・ポップ文化のなかで復権。現在では20世紀前半のモダン・ラグジュアリーの象徴である。
現代への示唆
新技術と豪華さの結合
機械時代と豪華素材を対立させず、統合した。テクノロジーとラグジュアリーの両立——これは現代のハイテク・ラグジュアリーブランド(Apple、テスラ、ロレックス)の設計思想に直結する。
時代精神の視覚言語化
1920年代の楽観的モダン・ライフを視覚的に約束した。時代感覚を一瞥で伝える様式を作れるかが、ブランド設計の核心である。
都市スカイラインを作る
クライスラー・ビルのような建築は、単独の建築物ではなく都市アイコンとして機能する。フラッグシップ建築が企業のブランドを数十年にわたって語る。
流行と様式の循環
アール・デコは一度衰退し、30年後に復活した。流行は揺り戻しを経て古典化する。いま古臭いとされるものが、20年後には新鮮な参照対象となる可能性は常にある。
関連する概念
- クライスラー・ビル
- ルネ・ラリック
- エルテ
- 流線形
- アール・ヌーヴォー
参考
- 海野弘『モダン・デザインの源流』平凡社
- アラステア・ダンカン『アール・デコ』Thames & Hudson