Tag
東洋哲学
-
論語
『論語』は孔子(前551頃-前479)とその弟子の言行を記録した儒教の根本経典。全20篇、約500章からなる短い対話・箴言の集成で、孔子の死後に弟子・孫弟子たちが編纂した。中心概念は『仁』(人を思いやる心)、『礼』(社会の秩序と作法)、『学』(絶え間ない自己研鑽)。2500年にわたり東アジアの倫理・政治・教育の基層を形成し、現代でもリーダーシップ論の原典として読み継がれている。
-
武士道
武士道は中世から近世にかけて武士階級が涵養した倫理規範の総称。儒教・禅・神道を融合し、義・勇・仁・礼・誠・名誉・忠義を軸とする独自の道徳体系を形成した。古典としては山本常朝『葉隠』、大道寺友山『武道初心集』などがあり、近代では新渡戸稲造が1899年に英文『Bushido: The Soul of Japan』を著し、世界に日本の道徳を発信した。日本型リーダーシップの精神的背骨として現代経営論でも参照される。
-
中庸
儒教における徳の中心概念で、『中』は偏らないこと、『庸』は常に変わらぬ日常を意味する。過剰と不足の両極を避け、『その時その場に応じた適切さ』を実現する。『中庸』は四書(大学・中庸・論語・孟子)の一つで、子思(孔子の孫)が著したとされる。アリストテレスの『中庸』とも共鳴する、経営におけるバランス感覚の原型。
-
仁
孔子(前551-前479)が『論語』で説いた儒教の中心的徳目。字義は『二人』——人と人の間にある徳を意味する。『人を愛する』(樊遅問う)、『己の欲せざる所、人に施す勿かれ』(黄金律)など、他者への配慮を核とする。後世、孟子は『仁は人の心なり』、朱子学は『天地万物を一体とする心』と展開。近代経営論の倫理的基盤。
-
孟子
孟子(前372頃-前289頃)は孔子の孫・子思の門下に学び、儒教の正統後継者として位置づけられる戦国時代の思想家。中心思想は『性善説』——人間の本性は善であり、四端(惻隠・羞悪・辞譲・是非の心)として萌芽している。また覇道(力の政治)を退け『王道』(徳による政治)を説き、民を重視する『民貴君軽』を掲げた。人間への根本的信頼に立つ孟子の思想は、信頼ベースの組織論の原点である。
-
中観派
中観派は2-3世紀のインドの思想家ナーガールジュナ(龍樹)が開いた大乗仏教の学派。主著『中論』で『空』と『縁起』の論理を極限まで展開し、一切の事物は他との関係の中でのみ成立する(自性を持たない)と論証した。八不中道——生・滅・常・断・一・異・来・去いずれにも偏らない中道——を掲げ、極端な実体視を解体する。『第二の仏陀』と呼ばれ、チベット仏教・禅・天台の基層をなす思想である。
-
善の研究
『善の研究』(1911)は西田幾多郎(1870-1945)の処女作で、日本近代哲学の金字塔。主客未分の『純粋経験』を出発点に、実在・善・宗教を一貫して論じた。西田は禅体験と西洋哲学(ジェームズ、フィヒテ、ヘーゲル)を融合し、西洋の主客二元論を超える独自の哲学を構築した。京都学派の出発点であり、『行為的直観』『絶対矛盾的自己同一』など西田後期概念の萌芽を含む、日本発の世界哲学の原点である。
-
道徳経
『道徳経』(老子)は道家思想の根本経典。全81章、5000字余りの短い韻文で、宇宙の根本原理『道』と、その現れとしての『徳』を主題とする。『道可道非常道』で始まり、無為・柔弱・寡欲・小国寡民といった逆説的な統治論・人生論を展開する。『柔弱は剛強に勝つ』『大国は下流なり』など、力の論理を反転させる老子の洞察は、硬直した組織や過剰介入への解毒剤として現代でも読み継がれている。
-
風土
『風土——人間学的考察』(1935)は和辻哲郎(1889-1960)の代表作。風土とは単なる自然環境ではなく、『人間存在の構造契機』である——そう和辻は定義する。モンスーン・砂漠・牧場の三類型を通じて、気候風土が人間の自己理解・社会構造・宗教を形成する過程を分析した。ハイデガーの『存在と時間』の時間性偏重を批判し、『空間性』と『間柄』から人間を捉え直した、日本発の独創的な人間存在論である。
-
無為自然
老子・荘子を祖とする道家思想の中核概念。『無為』とは何もしないことではなく、『作為を加えない、力ずくで結果を得ようとしない』こと。『自然』は『自ずから然り』、物事がそれ自体として成ること。統治者の理想形として、そして個人の生き方として、老荘思想は『介入の美学』を説く。過剰な介入を控える現代経営論と深く響き合う。
-
荀子
荀子(前313頃-前238頃)は戦国末期の儒家で、孟子の性善説に対し『性悪説』を掲げた。『人の性は悪、その善なる者は偽(人為)なり』——人間の本性は欲望に傾くが、『礼』という人為的制度によって矯正可能である。弟子には法家を大成した韓非・李斯がおり、荀子思想は儒法折衷の源流となった。制度設計とインセンティブ論の東洋的原点として、現代のガバナンス論と響き合う。
-
唯識
唯識(ゆいしき、梵 Vijñaptimātratā)は4-5世紀のインドで無着・世親兄弟が体系化した大乗仏教の学派。『三界は唯だ識のみ』——我々が経験する世界はすべて心(識)の顕現である、と説く。八識(眼耳鼻舌身意+末那識+阿頼耶識)の精緻な分析で、深層意識が経験世界を構築する過程を解明した。中観と並ぶ大乗二大学派であり、認知科学・深層心理学と響き合う東洋的な心の哲学である。
-
公案
公案(こうあん)は禅宗、特に臨済宗で用いる修行の問い。『犬に仏性有りや無しや』『隻手の音声』など、論理的解答を許さない問いを徹底的に問い続けることで、概念的思考を超えた直観的悟りを誘発する。唐代中国の禅で確立し、宋代の『碧巌録』『無門関』で集大成され、日本では白隠慧鶴が体系化した。現代ではブレイクスルー思考やデザイン思考の源流としても注目される、独特の修行技法である。
-
知行合一
「知は行の始め、行は知の成るなり」——王陽明は、朱子学が知を先、行を後とする段階論を批判し、知行は本来不可分であると説いた。知っていて行わないのは未だ本当には知らないのと同じだ、という鋭い洞察は、幕末の志士から近代の日本人に強い影響を与えた。経営における「わかっているが動かない」問題の根本処方箋となる思想。
-
朱子学
朱子学は南宋の朱熹(1130-1200)が大成した新儒教体系。宇宙を『理』(秩序・原理)と『気』(物質・エネルギー)の二元で捉え、万物は『理』を分有すると説く。『格物致知』——個々の物事に即して理を窮めることで知に至る——を方法論とし、四書(論語・孟子・大学・中庸)を正典に据えた。元代以降中国の科挙公認学、江戸日本の官学となり、東アジア近世の思想・教育の骨格を形成した。
-
荘子
荘子(前369頃-前286頃)は老子と並ぶ道家の巨人で、『荘子』(南華真経)の著者。胡蝶の夢、庖丁解牛、朝三暮四など寓話と詩的レトリックで哲学を展開し、『万物斉同』(すべての存在は本質的に等価)と『逍遙遊』(一切のとらわれから自由な境地)を説いた。善悪・美醜・大小といった区別を人為だと退け、固定観念を徹底的に解体する荘子の思想は、認識の枠組みを問い直す哲学的震源として現代でも生きている。