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概要
半導体(semiconductor)とは、電気抵抗率が金属(導体)と絶縁体の中間に位置する物質の総称である。代表的な元素半導体はシリコン(Si)とゲルマニウム(Ge)。温度上昇や光照射、不純物の微量添加(ドーピング)によって電気伝導性が劇的に変化するという特性を持つ。
この可変性が半導体を特別な存在にする。純粋なシリコン単体は電気をほとんど通さないが、リンやホウ素をごく微量添加するだけで、電子の過剰なN型半導体または正孔(ホール)の過剰なP型半導体に変換できる。このPN接合の制御が、あらゆる電子回路の基礎原理である。
産業としての半導体は、1947年にベル研究所のウィリアム・ショックレー、ジョン・バーディーン、ウォルター・ブラッテンがトランジスタを発明した瞬間に幕を開けた。三人は1956年にノーベル物理学賞を受賞している。
技術の進化——トランジスタから集積回路へ
トランジスタは電気信号の増幅とスイッチングを可能にした素子であり、それまで使われていた真空管に比べて小型・低消費電力・高耐久という圧倒的な優位性を持っていた。
1958年、テキサス・インスツルメンツのジャック・キルビーが複数のトランジスタを一枚の半導体基板上に集積した集積回路(IC)を発明し、エレクトロニクスの歴史は新たな段階に入った。キルビーは2000年にノーベル物理学賞を受賞している。
その後の進化は「ムーアの法則」によって定式化された。インテル共同創業者ゴードン・ムーアが1965年に提唱したこの経験則は、「集積回路上のトランジスタ数はおよそ2年ごとに倍増する」というものである。この法則は半世紀にわたって産業のロードマップとして機能し、2020年代に至って物理的限界に近づきつつある。
現代の最先端プロセッサには、数十億から数百億個のトランジスタが3ナノメートル以下のルールで集積されている。
産業構造と地政学
半導体産業は垂直分業が徹底した産業である。主要な役割は以下の三層に分かれる。
- 設計専業(ファブレス): クアルコム、エヌビディア、AMD など。製造設備を持たず設計に特化する
- 製造専業(ファウンドリ): TSMC(台湾)、サムスン(韓国)。他社設計の半導体を受託製造する
- 設計・製造一体(IDM): インテルが代表。近年はファウンドリ事業も展開
製造工程を支える半導体製造装置では、ASML(オランダ)が極端紫外線(EUV)露光装置を独占的に供給しており、この単一企業が最先端ロジック半導体の量産を支える構造になっている。
2020年代に入り、米中間の技術覇権競争において半導体は最重要な戦略物資として位置づけられた。アメリカは2022年の輸出管理規則改定により、先端半導体および製造装置の中国向け輸出を大幅に制限。日本・オランダもこれに同調し、半導体を軸とした技術ブロック化が進行している。
現代への示唆
1. サプライチェーンの集中リスクを認識する
世界の最先端半導体の約90%はTSMCが製造しており、台湾という地政学的リスク集中地に生産能力が偏在する。製造業・IT企業を問わず、調達戦略においてこの構造的脆弱性を前提に置かなければならない。
2. 技術標準の制覇が産業支配に直結する
半導体は性能指標(プロセスノード)がそのまま市場優位に連動する数少ない産業である。一世代の遅れが顧客喪失に直結するため、R&D投資の持続性と技術ロードマップの読み方がリーダーに問われる。
3. 国家と産業の境界が消えている
かつて民間企業の競争領域だった半導体技術は、補助金・輸出規制・同盟関係という国家の論理に組み込まれた。自社の技術選択が地政学的文脈と不可分である時代において、経営者に必要な視野は産業分析にとどまらない。
関連する概念
トランジスタ / 集積回路(IC) / [ムーアの法則]( / articles / moores-law) / ファウンドリ / TSMC / EUV露光 / ドーピング / 技術覇権 / サプライチェーン / デジタル革命
参考
- 原典: Gordon E. Moore, “Cramming more components onto integrated circuits,” Electronics, Vol. 38, No. 8, 1965
- 研究: クリス・ミラー『半導体戦争』(千葉敏生 訳、ダイヤモンド社、2023)
- 研究: 湯之上隆『半導体有事』(文春新書、2023)