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概要
『ロビンソン・クルーソー』(The Life and Strange Surprizing Adventures of Robinson Crusoe)は、ダニエル・デフォー(一六六〇頃-一七三一)が一七一九年に刊行した小説である。本人の手記という体裁をとる擬似日記の形式で書かれ、英語における近代小説の起点の一つとされる。
主人公の孤独な生存と、合理的計算によって環境を制御していく過程が、十八世紀の市民的精神と植民地主義の両面を体現する。
あらすじ
ヨーク出身のロビンソンは、両親の反対を押し切って航海に出る。奴隷貿易、ブラジル農園経営を経て、再び航海に出た船が難破、彼だけが無人島に漂着する。
島で彼は、難破船から道具・火薬・聖書などを回収し、住居を作り、山羊を家畜化し、麦を育て、カヌーを掘る。二十数年の孤独の末、食人族から逃れてきた先住民を救い、曜日にちなんで「フライデー」と名付けて従者とする。
やがて反乱に遭った英国船が島に現れ、彼はその鎮圧に協力して帰国する。二十八年二ヶ月十九日の無人島生活が終わる。
意義
本作の成功は、具体的な労働と物の細部を描写する散文の力にあった。小麦を育て、陶器を焼き、柵を築く作業の克明な描写は、それ以前の物語文学にはなかったリアリズムをもたらした。
同時に、主人公がフライデーを「使用人」として受け入れ、島を「自分の領地」と呼ぶ視点は、植民地主義と人種主義の文学的表象として今日の批評の重要な対象である。ヴァージニア・ウルフからクッツェーまで、本作をめぐる対話は続いている。
現代への示唆
ゼロからの資源化能力
難破船の残骸から道具を回収し、島の植物で食糧を確保する過程は、制約下での資源発見の原型である。危機対応において、手元にあるものを再評価して何が使えるかを組み直す能力は、平時の最適化能力とは別種の資質である。
日記をつけることの意味
ロビンソンは日付を刻み、日々を記録する。孤独な環境で正気を保つのは、時間の秩序と記録の習慣だった。記録と振り返りの習慣は、急速に変化する環境下での意思決定を支える基盤である。
帝国の視線を相対化する
フライデーを「救った」という彼の視点は、当時の読者の世界観そのものだった。現代のリーダーは、自社の活動が他者の世界にどう見えているかを、外部の視線で絶えず点検する必要がある。善意の介入が構造的暴力を含みうることの自覚である。
関連する概念
- フライデー
- 無人島
- 擬似日記体
- 植民地主義
- ブルジョア個人主義
参考
- 原典: ダニエル・デフォー『ロビンソン・クルーソー』平井正穂訳、岩波文庫
- 研究: イアン・ワット『小説の勃興』南雲堂