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概要
煩悩(ぼんのう、kleśa)は、心を乱し、正しい認識と判断を妨げる精神作用の総称。仏教の苦の原因論(集諦)の中核概念である。
現代語の「悩み」よりはるかに広く、欲望・怒り・誤解・嫉妬・慢心など、意思決定と行動を歪めるあらゆる内的要因を含む。
三毒——根本煩悩
すべての煩悩の根本は、次の 3 つとされる:
- 貪(とん) — むさぼり・執着
- 瞋(じん) — 怒り・憎しみ
- 痴(ち) — 無知・誤認(根本的な縁起の理解欠如)
この三毒から派生して、慢(傲慢)・疑(疑念)・悪見(誤った見解)などが加わり、さらに細分化して伝統的に 108 の煩悩が分類される。除夜の鐘 108 回の由来である。
現代への示唆
煩悩は、現代の認知心理学における認知バイアスと機能的に重なる。
- 貪 → 損失回避バイアス、所有効果、サンクコスト効果
- 瞋 → 感情的意思決定、怒りによるリスク選好の変化
- 痴 → 確証バイアス、利用可能性ヒューリスティック
仏教が 2500 年前に「意思決定を歪める内的要因を分類し、自己観察によって制御する」という方法論を開発していた事実は重い。現代のマインドフルネス療法、CBT(認知行動療法)は、この伝統の科学的再発見と位置づけられる。
リーダーが自分の判断を歪める「煩悩」を認識できるか——組織の意思決定品質を左右する。
関連する概念
三毒 / [八正道]( / articles / eightfold-path) / 正念 / 認知バイアス
参考
- 原典: 『倶舎論』世親著(玄奘訳)大正新脩大藏經 第 29 巻
- 研究: 櫻部建『倶舎論の研究』法蔵館、1969