科学 2026.04.17

免疫システム

体内に侵入した異物を認識・排除し、自己を守る生体防御機構。自然免疫と適応免疫の二層構造で成り立つ。

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概要

免疫システム(immune system)は、生体が病原体・毒素・異常細胞などの「非自己」を識別し、排除するための統合的防御機構である。哺乳類では皮膚・粘膜による物理的バリア、即時応答する自然免疫、記憶を持つ適応免疫の三層が重なって機能する。

19世紀末、メチニコフが食細胞(マクロファージ)による貪食を発見し、エールリヒが抗体の概念を確立したことで免疫学は近代科学の一分野となった。両者は1908年にノーベル生理学・医学賞を共同受賞している。

免疫は単なる「病気への抵抗力」ではない。がん細胞の監視、組織修復の調整、腸内細菌叢との共生関係の維持など、生体の恒常性全体に関与している。

自然免疫と適応免疫

免疫システムは大きく二つの層に分かれる。

自然免疫(innate immunity)は進化的に古い仕組みで、病原体に共通するパターン(PAMPs)を受容体(TLRなど)で認識し、数分から数時間以内に応答する。マクロファージ・好中球・NK細胞・樹状細胞が主役で、炎症反応を起動して異物を包囲・排除する。特異性は低いが即応性が高い。

適応免疫(adaptive immunity)は脊椎動物に特有で、特定の抗原に対して高精度な攻撃を仕掛ける。T細胞とB細胞がクローン選択によって活性化し、B細胞は抗体(免疫グロブリン)を産生する。初回応答には数日を要するが、記憶細胞が形成されることで二度目以降は迅速かつ強力に反応する——これがワクチンの原理である。

自己と非自己の識別

免疫システムの根本問題は「何を攻撃し、何を攻撃しないか」の識別にある。

胸腺ではT細胞の「教育」が行われる。自己組織と強く反応するT細胞はアポトーシスで除去され(陰性選択)、適度に自己MHCを認識できるT細胞だけが末梢に放出される。この過程の失敗が自己免疫疾患——関節リウマチ・1型糖尿病・多発性硬化症——の一因となる。

逆に、免疫が本来無害な外来物質に過剰反応するとアレルギーが生じる。IgEを介した即時型アレルギー(アナフィラキシー)は生命を脅かすこともある。免疫の「精度」は高すぎても低すぎても問題を起こす。

がん免疫では、腫瘍細胞がPD-L1などの「免疫チェックポイント」分子を発現してT細胞の攻撃を回避する。この機構を解除するチェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体など)は、本庶佑らの研究を起点に2018年ノーベル賞の対象となり、がん治療に革命をもたらした。

現代への示唆

1. 多様性が組織の耐性を生む

免疫システムは単一の万能細胞ではなく、役割の異なる多様な細胞の連携で成立している。自然免疫の即応部隊、適応免疫の精密部隊、記憶を保持する部隊——組織における機能分化と冗長性の設計原理と重なる。均質なチームは特定の攻撃に強いが、未知の脅威に脆い。

2. 「記憶」が次の危機対応を速くする

適応免疫の強みは記憶細胞にある。一度経験した脅威への再応答は格段に速く、強い。組織としての危機対応も同様で、過去の失敗から学習した「免疫記憶」を制度化できるかどうかが次の危機での生存率を左右する。ポストモーテム文化はこの機能を人工的に作る試みといえる。

3. 過剰反応がシステムを壊す

サイトカインストームは免疫の過剰応答が宿主自身を傷つける現象で、COVID-19重症化との関連でも注目された。組織でも、外部の変化に対して過剰な管理強化・人員削減・内部統制の暴走が起きることがある。防御機構が攻撃機構に転じるリスクを常に意識する必要がある。

関連する概念

[自然免疫]( / articles / innate-immunity) / [適応免疫]( / articles / adaptive-immunity) / [抗体]( / articles / antibody) / [ワクチン]( / articles / vaccine) / [自己免疫疾患]( / articles / autoimmune-disease) / [炎症]( / articles / inflammation) / [がん免疫療法]( / articles / cancer-immunotherapy) / [恒常性]( / articles / homeostasis)

参考

  • 原典: Peter Medawar『The Uniqueness of the Individual』(1957)
  • 原典: Frank Macfarlane Burnet『Clonal Selection Theory of Acquired Immunity』(1959)
  • 研究: 多田富雄『免疫の意味論』青土社、1993
  • 研究: 本庶佑『がんに挑む——免疫チェックポイント阻害の発見』岩波書店、2019

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