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概要
『ハムレット』(Hamlet)は、ウィリアム・シェイクスピア(一五六四-一六一六)が一六〇〇年前後に書いた五幕の悲劇である。四大悲劇の冒頭を飾り、世界で最も頻繁に上演されてきた戯曲の一つである。
主人公は復讐を命じられながら、即座に実行せず、存在と行為、生と死、真実と仮象を問い続ける。「生きるべきか、死ぬべきか」に代表される独白が、近代的な内省の言語を確立した。
あらすじ
デンマーク王の急死後、弟クローディアスが王位を継ぎ、兄の妻ガートルードと結婚する。帰国した王子ハムレットは、父の亡霊からクローディアスが自分を毒殺したと告げられ、復讐を誓う。
ハムレットは狂気を装って真相を探る。旅役者に父殺しの場面を演じさせ、叔父の動揺を見て確信を得る。しかし王を殺す機会に彼が祈っている姿を見て、その魂を天に送ることになると躊躇する。
終幕、オフィーリアの自殺、毒の剣と杯、ガートルードの誤飲、レアティーズとの決闘、クローディアスの死、そしてハムレット自身の死。王宮は屍の山となり、ノルウェー王子フォーティンブラスが入城する。
意義
『ハムレット』は、行為以前の思考を文学の中心に据えた。復讐劇という行動の物語を、内省の物語に転倒させた点に革命性がある。
T.S.エリオットは本作を「芸術的失敗」と呼びつつ、ハムレットの感情がその対象を超える不均衡こそが主題だとした。ラカン、デリダ、ハイデガーら二十世紀の哲学者たちも、本作に立ち戻って思考した。
現代への示唆
判断と実行のはざまで
ハムレットは情報収集・検証・再考を重ねる。そのあいだに状況は悪化し、無辜の犠牲者が増える。熟慮と決断の均衡はリーダーの永続的課題であり、完璧な情報を待つ者は、しばしば行為そのものを失う。
狂気の仮面という戦術
正面から戦えない相手に対して、ハムレットは狂気を装い、観察者のポジションを確保した。組織政治においても、自らの手の内をどこまで見せ、どの瞬間に明かすかの設計が成否を分ける。
舞台の中の舞台という検証装置
劇中劇「ねずみ取り」は、仮説を検証するための実験装置である。クローディアスの反応を観察することで、仮説の真偽を確かめた。経営判断においても、本番投入前に同等の検証装置を設ける思考は有効である。
関連する概念
- 亡霊
- 生きるべきか死ぬべきか
- オフィーリア
- 劇中劇
- エリザベス朝演劇
参考
- 原典: シェイクスピア『ハムレット』小田島雄志訳、白水Uブックス
- 研究: ハロルド・ブルーム『シェイクスピア――人間の発明』早川書房