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概要
無我(むが、anātman)は、仏教が他の古代インド思想と最も鋭く対立する教義である。
バラモン教・ヒンドゥー教の中心概念であるアートマン(ātman、恒常不変の真の自己)の存在を、釈迦は明確に否定した。「自己」と呼ばれるものは、一時的に結合した構成要素の集合にすぎず、固定した実体はない——これが無我の核である。
五蘊の分析
人間は次の 5 つの要素(五蘊)の集合として分析される:
- 色(しき) — 身体・物質
- 受(じゅ) — 感受作用
- 想(そう) — 表象・認識
- 行(ぎょう) — 意志・行動
- 識(しき) — 意識
このどれも、あるいは全体のいずれも、「不変の自己」ではない。各要素は常に変化しており、その集合も変化する。
現代への示唆
無我は「自分らしさ」「企業らしさ」を過度に固定化する思考への解毒剤となる。
- 個人:「本当の自分」を探す旅は、多くの場合徒労に終わる。自分とは、関係と役割の中で 都度生成されるもの
- 組織:「自社のアイデンティティ」「創業の精神」を絶対化すると、環境変化に適応できない。アイデンティティは継続的に再構築される資産
- ブランド:「自社らしさ」は顧客との相互作用の中で形成され、市場が変われば意味も変わる
無我は自己否定ではない。自己を関係の産物として柔軟に捉える視座である。
関連する概念
[空]( / articles / sunyata) / [縁起]( / articles / dependent-origination) / 五蘊 / アートマン / [諸行無常]( / articles / impermanence)
参考
- 原典: 『サンユッタ・ニカーヤ』「無我相経」
- 研究: 和辻哲郎『原始仏教の実践哲学』岩波書店、1927